紅い宴

「このたび 12代目 zip を襲名させていただきました。12zip と申します」

「ほう、これは、あのときの若造。」
「乗り込んできて、片っ端からうちの画像を非可逆圧縮していったときは大変だったな。」
「いやはや、大きくなられました。」

— ト (@toby_net) September 22, 2018

「わしゃー、みとめんぞ! エントロピーの高いファイルを圧縮しおって!」
「何をおっしゃいます。 昔は内容に合わせて、無圧縮で済ましていたかもしれません。でも、御大の頃とは時代が違います」
「いーや、あの若造はわかっとらん!」

— ト (@toby_net) September 22, 2018

「まぁまぁ、そのへんにしときなされ。襲名の儀ですぞ。だいいち、一般の人は zip だか圧縮率だか、もう気にする時代やおまえんのや。これが現実や。」
「…ふん」

— ト (@toby_net) September 22, 2018

「うちの仙人などは、勝手に写真を現像されたなどと…。 今日は来ておりませぬ。」
「あれは災難だったのぉ。」
「フハハハ。ネットにバックアップしとかんのがわるいんじゃ。」
「チッ、クラウドにぜんぶロウをアップさせる気けえ。」

— ト (@toby_net) September 22, 2018

「ふん、うちの若いのに比べりゃまだマシよ。 解凍時に身代金まで要求しくさって。」
「おまはんとこのはあかん。 人様に迷惑かけちゃ。この業界、信用第一や。もう誰もメンテしてくれへんで。」
「わかっとるわい。 プラットフォーム毎の対応すら、人手足らん。ホンマ、あの馬鹿チンが…」

— ト (@toby_net) September 22, 2018

「ま、ま、その辺にして今日は年代物のバイナリが手に入りやした。グイッといきやしょう。 」
「ほほう、これがおまんとこがサルベージしたサーバーの。実行ファイル。」

— ト (@toby_net) September 22, 2018

「そうです。少なくとも 200年前の。C言語で書かれています。」
あたりがざわめく
「そんときから C言語、あったんちゅうんかい! そっちがおどろきや!ガハハハハ!」

— ト (@toby_net) September 22, 2018

メジャーアップデートにかこつけた騒がしいうたげ。 このうたげが、のちにリカバリー不可能な領域に変わるのを知る者はいなかった。

— ト (@toby_net) September 22, 2018

『紅い宴』より抜粋

— ト (@toby_net) September 22, 2018

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