受付獣はサーバルと相場は決まっている。
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「アオーッ」
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「ふーん。いいね。」
「フーッ」
「それもいい。」
「(肉ボールをつつき始める)」
「いいじゃない。」
カメラを持ち、フードをかぶった男は言った。
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「どれも(どのポーズも)いいね。」
パシャリ。受付獣相手とはいえ、ここではフラッシュは厳禁だ。
感度を上げたいのをグッと我慢して、口径を上げる。ドローンにより浮かぶ肉ボールをつかもうと、長くなる受付獣。
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「そう、伸びてもらえると助かる。ちょうど収まる。」
受付獣は肉ボールに夢中だ。今日はこれ以上の夢を見せてくれるわけではなさそうだ。
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「ふだんはしがないサラリーマンでね… いや、今の時代、賞与が出るだけありがたいもんさ。」フードはひとりごちた。
コンコンと音が鳴る。受付獣と訪問者を隔てる透明な仕切りを叩く音だ。すぐにわかった。誰だ。獣をおどかすやつは。撮影タイムだというのに。
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同時に音の方向へと振り返る、獣とフード。そこには誰もおらず、青い方のジャバボタンが立て掛けてある。むろん、受付獣の側にだ。
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受付獣は、いつもは夢中のはずの肉ボールを放置した。次には、蒼いジャバボタンへと向かう。
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姿は見えなかったが、飼育員だったのだろうか。
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「粋なはからいだぜ」 フードはカメラ向ける。動きに合わせ、ギリギリまでシャッタースピードを調整する。
「まだ、夢を見せてくれるっていうのかい?」
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ちょうどその時…
スーッと、先程まで透明であった仕切りがにごりだした。 数秒後には、透明度を感じられなくなり、受付獣とフードとの有視界での接続は途絶えた。
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「せっかくこれからだってときに…」
「ふぅっ」とカメラをおろしたフード。次の撮影タイムには時間がある。夢は終わったのだ。
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「今日はいかがでしたでしょうか。またのご来店を…」
声をかける黒いスーツの男。フードの耳には入らない。
「…今日は帰るか。」
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人気のない交通機関に搭乗。空いた席には、受付獣のような獣が座っていた。後ろからでもわかる、その背丈は明らかに彼獣であった。
「夢はまだ続いていたようだ。」
カメラをかまえ、設定を調整しようと目を離したそのとき、後ろから何かを突きつけられた。背中越しに、危険な形状が伝わる。
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「動くな。データを渡せ。その中に入っているんだろう。」
「ハイエンド・コンピューティングのことか?」とフード。
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「毎週のように、受付獣を撮りに行くと見せかけて、データを渡しているだろう。よこせ!」と後ろから姿を見せぬ不可視の者。
突如、「ジャバッ」と音がした。
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不可視の者の油断を、スキを、フードは見逃さない。
カメラホルダーが火を吹き、背中越しに速写。
同時に、フード自身のカメラは、目の前の獣をとらえていた。ちょうど列車内にあった緊急用ジャバボタンによじ登ろうとしたところを見逃さず、収める。伸びる。
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ドサッ。遅れて、不可視の者は倒れた。よく見ると、それは同僚か上司か、はたまた職場の清掃員にも見えたが、ジャバボタンによじ登る獣の前には、どうでもよいことであった。
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緊急用ジャバボタンは、獣に登られるたび、ジャバジャバ鳴ったが、獣は気にとめないようだった。
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少し獣との距離を取ろうとしたところで、ゴロリと何かを蹴ったようだ。
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「突きつけられていたのはこれか」
紅い棒。携帯用ジャバボタンだった。
「夢をまだ終わっていないってことか。」
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フードはひとり、つぶやきながら、列車内に忍び込んでいた獣が取り押さえられるまで、シャッターを切りつづけていた。
『受付獣とジャバ』より抜粋。
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