あなたとジャバ。珍妙なフレーズが描かれた壁画部屋にたどり着いた。あなた? それにしても、ジャバとは何だ。
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日
その紅い模様は、まるでスイッチのようだった。壁画には、くぼみがあり、その一部は、真紅であり、まるで押されるのを待っているかのような凹凸をしていた。
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日
わたしが紅い模様を撫でようとしたとき、ズルリとそれは凹んだ。
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「ふれた覚えはない、これは一体…」
「これは…罠だ」
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日
わたしが思わず声を発した直後、後ろの扉が閉まった。
模様がへこみ始めたとき、「ジャバ」という音が聞こえた気がしたが、当時の動転していた私には、音の意味するところは分からなかった。
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「そういえばガイドは…?」
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大丈夫か、と叫び、周囲を見渡すと、ガイド、フードの男の姿はなく、ただわたし一人が狭い空間に取り残された。
「ガイドは、フードの男はまさか、ハメたのか? それとも…」
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日
腹のあたりが冷たくなり、反面、熱くもないのに、いやな汗が流れはじめた。
杖で壁を叩き、出口を探る。音が変わるところがないか、必死で私は探した。
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床にある穴が、排水口のような形の穴が不気味だ。空気の取り入れ口である事を祈りたい。
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ゴツゴツ…コッコッ…。
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「ここだけ音が違う。隠し扉に違いない。」
出口がある事に関しては、私には確信があった。
罠をテストする者が、無事に出られない構造を作るとは思えなかったからだ。また、床に人骨が転がっている様子もなかった。
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「ダメだ!開かない。」
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小一時間はたっただろうか。関係者以外出入り禁止の通用路は、存在しなかった。私は途方に暮れた。
「もう一度、あの紅いスイッチを押してみるか。」
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ガイドを呼ぶ声も枯れ果てたとき、私は決意した。
ジャバ!ジャバジャバ!
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面妖な音が狭い部屋に響く。私はこれでもかと言わんばかりに、スイッチを連打した。
とっておきの策だった。私を閉じ込めたスイッチを押すなんてのは。何が起きるか分からない。
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カパリと、開く音がした。 例の隠し扉だ。次には、希望は絶望に変わっていた。
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「人が通るには小さすぎるな。」
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紅いスイッチを押した後に開いた扉。顔を入れ、覗き込むくらいは可能な、細い通路であった。
通路からはゴロゴロと音が聞こえ、思わず、退いた。 その後、私の心情を表すような惨劇が待ち構えていた。
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ゴトリ、ゴトリと通路の穴から落ちるそれらの物体は、意思をもったように連なり、私を取り囲んでいった。
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じっくりと見る暇など無さそうであったが、あとから思い出すと、それは人間の顔より少し大きく、20か30個は転がっていた。中には、重力を無視したかのように、天井や壁に張り付く物体すらあった。
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そして、それらには「バ」「ヤ」「ジ」なる文字が刻まれており、これが、罠でないと言いはるのは、ほとんどジョークである。「やっぱり罠だったろ?」と一人呟くと、頭の中にシットコムの笑い声が響いた。
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何が起きても不思議ではない。私は覚悟し、神に祈った。祈るほどの信仰もないが、助かれば儲けものだ。助かったあとで、改宗する事だって、神は許してくださるだろう。
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ゴロゴロと転がる物体の一つが光り、私の頬を何かがかすめた。焦げた臭いが鼻の中から漂う。
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焦げた臭いの不快さ、右頬からの苦痛に立っていられるはずもなく、私は、転げ、のたうち回っていた。
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「……ッ!……ッ」
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声も出せず、痛みを堪えようと、地面のタイルを無我夢中で掴むと、爪が剥がれた。
足も熱い。焼けるようだった。頬とどうじに、足も焼かれていたのだ。倒れたのは痛みに、耐えられないだけではなかったのだ。
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早く殺してくれ!と心で叫ぶ。歯を食いしばり、気を失う前、土汚れたブーツが見えた。どこかで見た靴だ。だが、もはやそんな事を考える余裕はなかった。
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日
「……起きろ」
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聞いた声だ。いや、そんな事はいい。まだ、生きている事に感謝だ。改宗を決意したのはこの頃だ。
気がついたときには、私は遺跡の外にいた。
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ここは知っている。遺跡近辺のバラックだ。ここらには、建物は一軒しかない。ガイドと出会った場所だ。
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「応急処置はしてある。災難だったな。」
「…何だと!お前!」
私の怒りが口に出て、自分でも驚き、頬に手をやった。治っている。夢だったのだろうか…?
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「話せるなら大丈夫だ。だが、ここの設備では、これが精一杯だった。」
私の足に近づけたガイドの手を払い、その手で膝の感触を確かめると、至るところに傷が見えた。
膝の傷などはどうでも良かった。治療の礼は、怒りの前にして、消し飛んでいた。
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「これは参加賞だ。ジャバボタンという。」
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「な、参加賞!?」
ガイドは何様のつもりが知らぬが、命の危険ある空間に私を放り込み、あまつさえ、参加賞などと言うのである。
怒り心頭になった私は、ガイドの手から “参加賞” をひったくると、思い切り握りつぶそうとした。
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「ジャバ」
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気の抜けた声がなり響いたが、私の記憶では完全にトラウマとなったフレーズだった。そのため、慌てて地面に落っことすと所であった。
“参加賞” なる物体は、私が求めていた物だったのだ。
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「私は、こんなものが…こんなものを…探していたのか…」
ガイドは私が落ち着いた頃、話を続けた。
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「少なくとも 3 billion の価値はある。
参加賞とは言ったが、この系では貴重なはずだ。」
「…ああ、知っている。これで娘も助かる。」
実は娘の手術には、と言い出したところで、ガイドの男は振り返り、立ち去っていった。
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興奮を収め、正気に戻った頃、バラックの階段を下った。どうやら二階に居たようだった。
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バラックの入り口で、(私にとっては出口)フードを被ったガイドと一人の男とすれ違った。
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あれは…あの男は、私だ。いや、私のような人間だ。
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「ここに 8 million ある。あの遺跡を案内してくれ。」
新たな挑戦者を見つけたガイドの口元は、ニヤリと歪んでいたように見えた。
トランスポーターにたどり着くまでの私の足は、軽快だった。 うっかり紅いボタンを「ジャバジャバ」と鳴らしてしまうくらい心が踊っていた。
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トランスポーターを「暖気」させている間、チラリと辺りを見ると、全身青ずくめの人間が目に入った。
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チラリと見た青い人間の横には青い二輪。鋭角かつ、丸みを帯びた二輪は、青いというよりは、蒼いというのが似合うフォルムだった。
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私の目線が気に入らないのか、蒼い人間は二輪にまたがると、いずこかへ消え去った。
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日
同時に、私もトランスポーターを稼働させた。こんな所からは早く立ち去るに限る。そして、娘の顔を想像し、思わずグッと拳を握るとまた、あの音が鳴った。
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日
「ジャバ」
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『特ダ課 事件簿』より抜粋
— バャジ (@toby_net) 2016年9月29日