「3秒だけ待ってやる」
— トビーネット (@toby_net) February 10, 2023
スッと差し出されたパーソンの指は二本でした。
「に、2進数!?」
「3秒待つ! 2、 1……」
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「なっ 2 から?」
「0…」
「あっ 0 も数えてか」
「0、-1、-2…」
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「長い 3秒のようだな」
「-3、2、1……」
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「!?????」
ただ無限に数を数えるパーソンの目にあなたは映らないようだった。あなたはパーソンの顔を覗き込んでみたり、指が何本に見えるか聞いてみたが、「3秒」を数え続けるのみであった。
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先を急ぐあなたは、突如として体をひねる。元来た道に戻ろうとするフェイントをいれつつ、パーソンの横を通り過ぎる。
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想定していなかったひねりのせいか、あなたの後ろポケットから、ジャバボタンが転げ落ちた。
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転げ、もう少しで童話のおむすびのように側溝に落ちそうなジャバボタン(以下ジャバボ)。あなたはすかさず、体を地面へと投げる。側溝とジャバボの間に、自らを滑り込ませた。
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「ウッ…」
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あなたから鳴る悲鳴。体を強く打ったあなたであったが、手の中にはジャバボ(以下、ボ) があった。
(暗転からの眩しい光)
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あなたが目を覚ますと、ツンとした、薬品のような香り漂う部屋にいた。何かが体を包んでいた。パーソンをダメにするソファーのようなやわらかさだった。
「どうやら気を失っていたようだな」
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あたりを見渡すと、 ノコギリや赤く染まった刃物が散乱していた。 かすかに肉片と黒い液体で薄汚れていたものの、そこは医務室のようだった。
「気がついたようですね」
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赤いスーツにムチをしならせたパーソンが立っていた。はじめからいたようであったが、完全に部屋に溶け込んでいたようだ。
「ボは…? 」
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「ボ? あなたが大事にしていたものならはここに」
スーツがムチをピシリと打ち付けた先にはドロドロ、元の形状を無くしたボ(以下ジャバボタン)が転がっていた。
すかさず体を地面へと投げ出したあなた。またも体を打ち付け「ウッ…」と鳴いた。今度こそ、その手にはジャバボタンが握られていた。ドロドロの。
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ムチをしならせつつパーソンは言う。
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「応急処置はしておいた。……また必要なようにも見えるが。どこへでも行くがいい」
頭で考え付より先に、足は部屋のドアへと踏み出していた。ドアを蹴破るあなた。幸いドアは鋼鉄でもなく鍵もかかっていなかった。 「いつか弁償しなくては」と思いつつ、体は外へと向かうのであった。
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狭い路地を何度か曲がり、道に出ていた。赤いスーツが追ってくる気配はない。あたりはうす暗い。明滅する電灯があなたの帰り道を示しているようであった。
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「ジャバボタンが無事でよかった」
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繁華街にたどり着いたあなた。深く息を吐く。
画面端には無数に数を数えるパーソンがチラリと存在していた。あなたは少し動くと消えた。たしかにそこにいたのだ。
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もう一度、半歩ほど元の位置に戻る。また数えるパーソンが現れた。あなたは不思議に思いつつ、何度も半歩行ったり来たりした。パーソンは見えたり消えたりしていた。
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数えパーソンが 1/60 フレームで明滅するようになった頃、手にあるドロドロになったジャバボタンが、ふやけている事に気がついた。
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ジャバボタンに違和感を感じるも現実に引き戻された。あなたは端末を開くと最寄りの駅を指定。一目散にナビの示す方向へと、駆け出した。
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(暗転、そして医務室)
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「クククッ…」
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赤いスーツはホンモノのジャバボタンを手にした。 一人ほくそ笑んでいたのだ。
あなたが握りしめていたドロドロのジャバボタンが、生暖かい湯葉であることに気がつくのは、電車内で窓に寄りかかった頃であった。
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同時に湯葉が、今までに食べたことのない、あなたにとって至福の好物となるのも、まだ時間のかかることであった。
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『3秒だけ待ってやる』より抜粋
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