「今日は投票に行くので帰ります」
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政治に熱心な若手社員が、定時上がりに使う手である。
「ガハハハ。お前、毎日投票へ行ってるな。」
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パワハラで告発一歩手前である。しかし、定時で帰られるのでこちらも一歩ひこう
上司は続けた。
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「最近の若いもんは、親戚が少ないんだな。俺の若い頃は、週に一度は親戚の葬式が…」
何やら昔話に熱を上げ上げ始めたのでそそくさと帰宅。
うそは言っていない、毎日投票しているのは事実だ。帰る道すがら、駐車場まで歩きながら、バッグへと手を入れた。
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おもむろに紅いボタンを取りだしては押下した。
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《ジャバッ》
ジャバ音だ。投票完了。
ある休日、ふらりとインストールしたショッピングアプリが始まりだった。携帯端末に突然警告が出たため、指示に従いあわててウィルスアプリを導入。
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しかしときは遅かった。勝手に見たこともない。ショッピングアプリがインストールされていた。ウィルスに感染しています、という表示は本当だったのだ。
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このときあわててしまい、ショッピングアプリを起動したことまでは覚えている。アンインストールするつもりで、手が滑ったのだ。
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それ以来、不思議な道具が届くようになっていた。
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この前、買った紅いボタンもその一つだ。一日にイチド投票できるのだと言う。そして今日もまた、投票に利用した。
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かなり大きな音で「ジャバ」と鳴るのは欠点であるが、これは次期バージョンで解決されるだろう。アプリ内のレビューにも不満が上がっていた。
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一緒に届いた説明書によると、「何度連打してもジャバと鳴るだけです」とあった。最初の投票以降は、音だけが鳴るらしい。
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実際のところ、本当に投票できているのかは疑わしい。だが、それを口実にいつの間にか定時退社できているのは事実だった。
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定時退社できない ーー この思い込みが私自身を縛っていたように思えてならない。
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ジャジャバッ、ジャバッ、ジャジャジャバッ。昇降式の駐車場からなり続ける効果音に合わせ、ボタンをリズミカルに押下した。
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ジャバジャバ鳴るボタンは、ストレス解消にももってこいであった。
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『紅いセレクトショップ』より抜粋
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ボタン堂に並べられている中で、ひときわ目立つ紅いボディ。白地で刻印された「無料ジャバのダウンロード」の文字。
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凍結されていたプロジェクト、ブロムカンプ監督最新作『けものフレンズ2』(英語名『Beast gang』)として復活。南アフリカにて2038年、撮影開始。
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