何かな穴が空いている気がする。ポッカリトシタ穴が。ドーナツに穴が ーー
— トビーネット (@toby_net) August 5, 2022
突然人類を襲った穴は、ドーナツを「侵食」した。この厄災には人類の「侵食」前と事象を忘れされる力があった。そして、ドーナツの穴だけが爪痕として残った ーー
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「見てください。こちら原始の穴の一つです。」
— トビーネット (@toby_net) August 5, 2022
ドーナツではない?
「そうです。最初は食パンに穴が空いたのです」
ドーナツではなかったために被害が広がらなかったと
「さわらないください!」
おっと
「サンプルの汚染もあります。ですが、あなた、いや我々が「穴」を忘れてしまう可能性もあります」
— トビーネット (@toby_net) August 5, 2022
次に穴が開くのは食パンであると。
研究者は首を左右に振った。
「穴が開くのは人間の認識にです」
「こちらはリハビリテーション施設です。日常で穴を意識するための訓練を行っています」
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窓越しには入院したときのような服装の少年が見えた。おもちゃのようなギアをかぶり、かざした手の少し先には「穴」があけられている。空間に「穴」が、たしかに開いていた。
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「食堂です。様々な穴を提供しています」
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チュロスの香りがする。
「ああ、この香りですね。穴と香りを関連付け、忘れた後にもふとした日常で思い出しやすくするためです」
今週は映画館を模したメニューだそうだ。キャラメルの香りもする。コーラは無料。
「どうですか。おひとつ」
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さしだされた、チュロスは穴が開いていた。本来、棒状であるはずが、あたかも穴が開いているように見える。「ウロボロスのチュロス」とでもいおうか。
「……コーラのガブ飲みは構いませんが、チュロスはお忘れなく」
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あわて、あなたはコーラサーバーから口を離した。
横目で見ると、家族を連れた職員までいる。穴を忘れないための福利厚生の一環だろうか?
あなたは手に取った穴開き「ウロボロスのチュロス」(仮名)をほおばる表情をしながらも、一口も手を付けずに、サンプルとして上着にしまい込んだ。
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他人から差し出されたものを口に入れるわけにはいかなかった。そのような訓練を受けているのだ
「……おきてください。手が見えますか。穴は開いていますか。」
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どうやら気を失っていたようだ。気がつくとあなたは医務室のような場所にいた。
「……穴は?」 開いていない。
「それはよかった」 笑顔が不気味に見えた。
「水です」 いや、のどは乾いていない。
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「……そうですね…そうでしょうね。あなたは…」
何かをいいかけた職員は、それ以来、口をきいてくれなかった。
帰路の途中、あなたはふと上着にあるものを見つけた。とりだすといい香りがする。 それは紅いボタンであった。細長く、たしかにいい香りがする。押せる。押せるボタンだ。
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あなたは何かを忘れている気がしたが、紅いボタンには訪問先のロゴが掘られており、「気が利いたノベルティであるな」と思うのみであった ーー
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『紅い穴 ードーナツの浸食ー』 より抜粋
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穴の真実が見えたとき、穴はすでに無くなっている
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