ガコンガラガラと通りすがりの自販機から聞こえる。 自販機のフタを開けると、ワンカップ活力が入っていた。お金を入れたか覚えがない。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
しかしながら、少し全体がこすれたかのようなガラス瓶は、やはり少し小ぶりだ。 されに少しのロゴが並んでいる。 ワンカップ活力。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
自販機にはたしかに見本とラベルがあった。 「活力」とともに波打つような下線がいくつもいる。 何らかの風潮であった。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
横には、「気合」、「根性」など金属素材でいかにもゴツい、活かした飲料が並んでいる。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
何を買ったわけでもなく、手にはあるワンカップ活力。 まじまじとワンカップを見つめた。「活力」とは何なのだ。 目の前の「気力」、「根性」とは違うのか。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
たしかなことは、目の前の自販機には金属製の「根性」が並び、またよく見ると上の段には「知性」、「真理」、「正義」など、物騒な缶詰めさえ並んでいた。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
仕方がない。選択肢があればあるほど、何もしたくなくなるものだ。心理学でいえば何とかってやつだ。何とかって部分は検索すれば分かる
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「エイヤッ」と思いきり、手元のワンカップを開けた。開けようとした。開かない…。 開かないでないか! タブのようものは取れ、フタは回すも空回りするのみである。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
目の前の自販機の誘惑に耐え、一度手元のワンカップに手を付けたのであるから、最後まで面倒を見てやるのが道理であろう。スジを通すとはこのようなことだ。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「自販機とは、なんとも不憫(ふびん)なものだ。」
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
思わずため息が出た。
ジャバを修(おさ)めたものならば、このような自販機には決してしないだろう。
ため息の息が白く、ワンカップを曇らせた。 いや、厳密には最初から透明ではないのだから、キャパシティがオーバーしたくもりというわけだ。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
無意識にガラス瓶を拭き取ったあなたは、そこに隠された文字列を見た。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「何なに、【少なくとも一週間たってから開けてください】」
一体どういうことなんだ。 自販機から手に入れたものが、すぐには飲めない。こんな事があるのだろうか。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
ー 一週間後 ー
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
うっかりぼうっとすごしている間に一週間たった。 よくあることだが、ここかららよくはない、いや、たしかに、あとから振り返れば、ここからよくない何かが起こったのだ。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
一週間たってから開けろ、などど書いてあるから仕方がない。 自販機から落ちてきたものが開きもしないのであるから、指示(?)に従うかどうかも、こちらの勝手である。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
とにかくこの日を待ちわびた。ここ一週間は、早くバイトを切り上げて、毎日のようにこの【開かずのワンカップ(活力)】を眺めていた。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
【活力と書かれた開かずのワンカップ】の記録日誌をとる始末。このような細かな観察は、ジャバの更新履歴を確認するに匹敵する。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
そして、一週間より一日たったワンカップは見事に空いた。中に入っていたのはラベルにある「活力」ではなく、単なる酒だった。少し「飲む」だけで眠くなる私には一舐めで判別は十分だった。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
自信があった。ワンカップと言えばお酒だろう。ラベルにある「活力」などなくとも、何らかの含有があるはずだった。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
バイトの終わりを楽しみにしながら一週間をへて、さらには内容物を舐めたために寝てしまう。これがまた実に快眠である。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「だが…」
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
騙されるものか。思わず声が出かかった。「活力」と書かれたワンカップが単なるお酒ならば、「活力」とはブランド名のラベルではないかッ!
すぐさま、自販機のもとへ走った。 以外にも家の窓から見られる位置にあった。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「ここにも自販機があったのだな。」
この人間、なんと、今まで通り道の自販機の存在を曖昧にして過ごしていたのだ!
とにかく、ワンカップに書かれていた「活力」の文字が、ブランド名や、ましてや酒の品種でないか確認せねばならない。 ようは他の種類の金属缶も味見をすればよいのだ。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
ボタンを押すとジャバッという音が聞こえた気がした。自販機のラベルには「ジャバ」と書かれている。 こんなボタンが前には、あっただろうか?
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
ジャバッ!ジャバッ!
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
ジャ、ジャババババババッ!
思わずジャバと鳴る自販機のボタンを連打していた。 そのボタンは紅かった。
お金を入れた覚えはない。 値段表記がないその紅いボタンは、押下するたびに、自販機としての缶の代わりに、新たなジャバ音を生成する。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
…結局、「活力」と書かれたワンカップ、あれは何だったのであろうか?
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
早く気がつくべきだった。 すべてがジャバだった。 どのボタンも紅い。 (いや一つだけ蒼いものも混じっていた。そのラベルもジャバと書かれていたので、同じことである)
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「【活力】と書かれたワンカップなしでは生きていけなくなり、【知性】【正義】の缶詰めを試し始めていたとしたら、今ごろどうなっていただろうか」
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
結局、その日以降、自販機はふつうの自販機となっていた。 少なくともジャバと鳴る紅いボタンはない。 ましてや、【活力】なるワンカップや、「気合」と書かれた金属缶はない
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「はあ… あの日の自販機は何だったのだろう」
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
またもや出たため息は、疑問を呼ぶこととなる。本当に確かめたくなり、ラベルなど無視してとにかく、押下せねばいられない。
ついに暴挙に出てしまった。すべてのボタンを同時に押すことにしたのだ!
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
ゴトリ。
「世界」と書かれた細身の毒々しい金属缶が大量にあらわれた。
つまりこうだ。どうみてもふつうの自販機、すべてのラベルには「世界」と書かれているくらいだ。様々な形状のものもある。例えば、「フタを開けようとしてゆがんだ結果クシャクシャになったようなペットボトル」があった。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
まただ! まだ、自販機にはお金を入れていない。いないのに、缶が出ている。しかも大量にだ。百やニ百ではない。まだまだ出てくる。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
最初の頃、もの珍しさからか近所の人間はありがたがっていた。町内の人々が「おかしい」ことに気がついたのは、観光スポットになっていた頃だった。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
無限にも湧き出る人だかりの列。無限に毒々しい金属缶が湧き出る例の自販機。それらを眺め、窓越しに引っ越しを決意した。
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
「次はここだぁ! 」
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019
地球儀をくるくる回し、止めるとそこは世界のちょうど真裏であった
『ワンカップ活力』より抜粋
— トビーネット (@toby_net) November 9, 2019