人工知能とジャバ

羽生の引退会見、彼は頭部を開けた。 あるはずの空間に脳はない。 台形を逆さまにしたような深い窪み。ガランとした空洞の中央に、キューブ上の黒い何かがあった。

— 臨時工場勤務 (@toby_net) May 15, 2016

ジャジャジャジャバーッ。 取材陣のシャッター音が響く。 つや消しされた黒い物体はフラッシュの光をすべて吸収するかのようだった。

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「人間は人工知能に勝ったのです。」 口を開いたのは、スーツの人間たちであった。

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いつからプロ棋士が人工知能と入れ替わっていたのか。 肝心の質問にはこたえられることなく、記者会見は終了した。

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「ある時から、歳をとらないように見えていた。」 取材を進めるうち、連載で書いたある記者の談である。 翌月からは、歳をとらない著名人の特集が始まった。

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漫画家、声優、ペッパー氏など、歳をとらない著名人に注目が集まっていた。

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ペッパー氏はかつて、期待の人工知能と目されていたものの、裏では人間がチャットしていることが報じられた。 しかし、ここにきて、歳をとらないことから「人工知能ではないのか」と再度検証が行われた。 結果、当時の記事を書いたスポーツ新聞社は謝罪することとなった。

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その頃、とある研究所。 ビシッとスーツを着た人間らが結合テストを行っていた。開けた空間に、ざっと300人は並んでいる。 一斉に、ディスプレイをヘッドマウントした姿は、2020年代のゲームセンターを彷彿させた。

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「少し遅れがでている。スケジュールを調整しなければ。」 巨大のスクリーンには、カラフルなセルが描かれている。 ガントチャートだ。 紅いスーツの女が鞭を弄りながら、モニターを眺めては、足を組み替える。

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そう、ここはジャバ研究所。 研究所と銘を打っているものの、その実はソフトウェア生産施設であった。 数百人のスーツの前には、プロ棋士の会見で見た黒いキューブが鎮座していた。

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黒いキューブは「ジャバマシン」だったのだ。

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ビーッ!ビーッ! けたたましい音が開いた空間に響く。ディスプレイを慌てて外したスーツの一人は、泡を吹いて倒れた。 続いてとなりのスーツも泡を吹き始めた。 「もらい泡」である。

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突如、鳴りひびいた警告音に反応するものは居なかった。 すぐに、よれよれ着こなしなスーツが複数現れた、よれよれは、手際よく倒れたスーツをタンカに載せ、運ぶ。 「いつものこと」と言わんばかりの手さばきであった。

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紅いスーツは、ピシリとムチを一叩き。 現場はいよいよリリース前。ジャバマシンに載せるソフトウェアの最終テストに入っていたのだ。そのためか、一層のあわただしさを見せているようだった。

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『人工知能とジャバ』 より抜粋。

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