カウンセリングにて
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「戻れるとしたら、いつがいいですか」
「…2064年」
「…まだ地」
「地球があった頃ですね」
「2064年に何を?」
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「オリンピック… 東京オリンピックを最後まで」
「…地球最後のオリンピックをですか」
「はい。 まさか誰も地球に残るとは思わなかったのです。 ですが、残った彼ら/彼女らが、…みなメダルをとるなんて」
「たしかに、地球に残ってまで競技を、非公式とはいえ、参加した人たちは少なすぎました。」
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「私は… 放棄したのです。プロとして恥ずべきことです」
「…プロ?の大会では…」
「いえ、残った者は、みなメダルを獲得しました。」
オリンピック参加者がプロかどうかは、彼にとって関係のないことのようだった。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「分かりました。では当時を体験してみましょうか」
「…!」
「大丈夫です。こちらでモニタしています。何かあれば、すぐに止めます」
白い部屋で、自由に動く外骨格のような白い骨組みに着込む、いや乗り込む彼。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「いいですか。 痛みはありません。少し意識を失うだけです。 すぐに 2069年に飛びます。多少の…」
「ショックは覚悟の上です」
「…はじめます」
彼はふと異変に気が付き、壁の監視用ミラーをする。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「待ってくれ! 今、2069年と言わなかったか!? 俺は 2064…」
視界が黒く途切れる。すぐに緑と泥の香りが彼の鼻をついた。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「…ウワッ」
覆いかぶさっていた泥と白骨死体をどける。
「ここは… 2069年…」
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
腕の端末を確認する。 事前の説明通り、「体験」の際には、端末で状況が確認できるようだ。
「2069年、あれから 5年のずれか… まあいい」
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端末で異常を確認するでもなく、彼は歩きはじめた。
「ナビなんて、いらねえ」
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
自身を持って草むらを、かき分け進む彼。年がずれていても、見覚えのある景色は、端末に頼る必要のなさを示していた。
荒れた大きな競技場を通り過ぎ、を苔むした建物 ーーかつては白かったであろう場所にたどり着いた
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「シェルター、ではないな。ここだ」
「開け、開けよ。そのためのものだろう?」
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端末を操作するも建物の扉は開かない。
「使えねえな」
「非常用の電力を外から動かすには…こうか…?」
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彼は入口近くのパネルを剥がした。 中の機械を操作した直後、ガガガと扉が開く。しかしガコン、ガコンと何かに引っかかり、1/3以上は開かない。
「ここまではよし」
ライトを点灯させるため、端末を操作しようとしたところで、彼が進む先の壁が明るくなっていく。
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「待っていてくれたってことか」
いつ止まるか分からないエレベーターは使わず、階段から降りる彼。
「ここだ! この部屋のはずだ!」
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ある部屋にたどり着いた彼は喜ぶ。彼が立つ部屋のラベルには「ジ研」の文字が彫られていた
腕の端末を操作する彼。開く扉。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「こんなときは役に立つんだな。助かる。バイオメトリクス認証は、当時と変わってるだろうしな」
扉が開くとすんだ空気が、外に排出される。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「エアロックは…ないのか? …あれは…」
あたりを見渡すまでもなく、彼の目の前、奥には横たわる紅い直方体。いわば「紅いひつぎ」があった。
「ジャバボタンはやはり地球にあった!」
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
突如、目の周りが暗くなる。
「おい、どうなったんだ。続けろ! ここからが…」
気が付くと彼は横たわっていた。目の周りがぼやけている。 どうやら医療施設のようだ。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
カウンセリングに当たっていた者の声が聞こえる
「…大丈夫そうですね。」
「いえ、すいません。どうやら年代を間違っていたようです」
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
男は激しく声を荒げ答える。
「…いや、あれでよかったんだ! あのまま続けていたら」
「あのまま続けていたら…?」
「いや…何でもない」
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「もう少し休まれて下さい。疲れているでしょうから。続きは、また次の機会に」
「続き?… 2069年の?」
「いえ、すいません、大変申し訳ありません。あの療法は一旦やめましょう」
カウンセリングしていた男は、彼が医療施設と思わしき建物を出るのを確認する。 デスクのパネルを押し通話を始めた。
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
「はい、思わぬ収穫です。例のものが見つかりました。…はいおそらく…例の」
一方、「現実の」外に出ながら彼は、もう一度2069年を体験しようと、施設に忍び込む計画を立て始めていた
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日
『幻のジャバリンピック』より抜粋
— トビーネット (@toby_net) 2019年8月16日