「…スディ + You、 …スディ+You … ディア・ジャバ~ 」
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
暗闇に奇妙な声がこだまする。 闇に浮かぶ小さな光がかすかに、人の顔を映し出していた。
「ハッピバースデイ + You」
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
よく聞くと、その歌詞は、人の誕生を祝うように聞こえた。
まるで儀式のようだった。 いくつもの小さな光が徐々に消えていく。 かすかなともしびを失った空間には、一面の闇が生成された。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
「ハッピバースデイ + You、ハッピバースデイ + You、ハッピバースデイ… ディア…ジャバ~」
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
早朝の社訓のように繰り返された歌声は、速度を緩め、いよいよもったいぶったシーンへと移行した。
フーッ、フーッ。 風を切る音からは、口を尖らせた子供の顔が目に浮かぶ。 実際にそれを黙視するには、減ったともしびでは不十分だ。 しかしながら、人の誕生を祝ったことがある人間であれば、ごく自然に補完されうるイメージであった。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
最後のともしびが失われ、完全な闇が現れた。そのとき、それは唐突に起こった。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
「フゥーーーーー」原住民の雄たけびのような声とともに、盛大な拍手が響く。
さながら、自己啓発セミナーのようであった。
パッと明かりがともった。 雄たけび、拍手、ダウンロード、それぞれが止まらぬ間に、闇は消えた。 闇など最初からなかったのだ。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
机の前に鎮座した人間が一人。 フードの人間が一人だけいた。あれほど聞こえてきたトライバルな歓声は一体どこから聞こえたというのだろうか。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
〝ジャバ~〟 〝ジャバッ、ジャバッ〟 〝ジャバさんおめでとうございます!〟
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
フード一人の空間に様々なジャバ音声が響き渡る。
ジャバ音声がなるたび、デスク上の端末が震えた。通知のためだろうか。 同様に、小さな直方体のスピーカーもブブブブと振動しながら、移動中。無線で接続されているのか、ジャバ音は、振動するスピーカーから聞こえている。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
斜めになった二つのスピーカーのうち、片方は今にもデスクから落ちそうである。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
〝イエーイ〟〝フューフュー〟 風を切る音が無線を経由して、音声となり、部屋に響く。
「お忙しい中、お集りいただきまして、まことにありがとうございます。」
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
フードの男がビジネス口調で語りだした。
「えー、本日は、1兆2000億のデバイスに達しましたジャバの…」
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
どうやら、式にでも紛れ込んだらしい。ただし、何かを悪魔でも召喚する類の式だ。
フードの男は、何も見ずにすらすらと講談をくり広げている。 抑揚すくなく、形式的な語り口調、そして、鏡と鏡の間においた丸いケーキは、何らかの儀式を想像せざるを得ない有様である。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
歓声と拍手が空間に響き渡った。 どうやら講談は終了したようだ。 いよいよと、フードの手がケーキに伸びる。 ケーキ上に付加されているチョコレートの板は、グワシッーと掴まれた。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
持ち上げられた「板」からは、生クリームと削り取られた生地がパラリと落下した。 ほんのり甘い香りが広まり、すぐに消えた。 チョコレートと思われていた「板」は、しなることもない。固く硬質な素材のようだ。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
紅く、そして、白い文字が板に並んでいる。 「ケーキ上のチョコレート板」という先入観がない今に至っては、それはもうジャバボタンにしか見えなくなっていた。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
合わせ鏡のケーキ、複数人に監視された部屋、フードの男、紅いジャバボタン。 それらの一つが欠けたとしても、「怪しげな儀式」という印象はぬぐいされないだろう。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
フードの男は、ついにとジャバボタンを連打しはじめた。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
ジャバ。ボタンを押すたび、ジャバ音が辺りに流れる。
ジャバ、ジャバ。またも、歓声がスピーカーを激しく震わせる。
ジャバジャバジャバジャバ。 止まらないスピーカーの振動は、ついに自身をデスクから落下させるに至った。 ゴトリと床に転がった箱からは、絶え間ない拍手が送られている。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
ジャバ音は、どこかにあるマイクに拾われ、監視者に拾われているのだろう。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
ジャバボタンの連打から、12時間が経過した。マイクがどこにあるかなどは、この空間から感じる疑問の中では、刺すのを止めない蚊に等しい。
ババババババ。 ジャバ音が「ジャバ」と聞こえない速さに到達していた。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
フードがジャバボタンを連打する手は、人間のシャッタースピードを超えている。ボタンから手がゆっくり離されているようにしか見えない。
1週間が経過した。修行。「修行」こそが、ふさわしい表現だった。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
フードの男は、目の前のケーキを食べることもなく、ひたすらにボタンを連打しつづけている。
……
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
3ヶ月ほどたったころ、二人の男が逮捕された。 ジャバ大学の研究員であった。 報道された話を信じるならば、倫理的ではない外科手術を行っていたというのだ。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
フードの男は非倫理的な実験の犠牲者であった。 ちょうど三か月前、フードは研究員により、電極を脳に埋め込まれていた。電極は、快楽を引き起こす部位に接続され、その電気刺激を作動させるスイッチは、一つの紅いボタンとして彼に手渡されていたのだ。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
フードがジャバボタンを押すたび、ドーパミンニューロンが活性化された。埋め込まれた電極は内側全脳束を効果的に刺激する。快い体験により、繰り返すごとに、ジャバボタン押下の効能は記憶される。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
捜査員がフードの男を発見した時には、うつ伏せになりながらも、ボタンを連打していた。 原因が分かった後、電極を摘出する手術が行われた。手術は成功に思われたが、一週間後死亡した。
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016
『違法なジャバボタンの実態』より抜粋
— 人間関係 VS ジャバ (@toby_net) July 14, 2016