ガラスの中の紅い秘密

「先生、職員室前のガラスケースは何なのですか」
「かつて、生涯をフリーターで通さざるを得なかった死者達の魂を封印しておるのじゃ。決して、割ったりせぬようにな。」

— [編集済み] (@toby_net) October 14, 2017

「先生、職員室前のガラスケースはどんな意味が」
「…あれは鏡じゃ。お主が何を見たかはわしも分からぬ。じゃが見たものが、今後の運命を決めるのじゃ。…心してゆけい! 選んだ道は決して楽な道ではないぞ!! 」

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「先生、職員室前のガラスケースになぜ大量の札束が?」
「な、なぜそれを!? お前には見えているのか? ……仕方ない、始末させてもらうぞ。気がついたお前がわるいんだからな 」
ドドドドドド ドドドドドド

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「先生、」そう冬服に変えたばかりの生徒が言い終わらぬうち、担任は答えた。
「ガラスケースが気になるか。」

生徒はケースに残る指紋を気にも留めない様子で、ベッタリと張り付き、中の様子を覗いている。

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教師は気付かれぬようガラスケースの端に手を添えた。ガラス越しに、生徒の体温が伝わったような気がした。
「先生、分かりますか?」

ドキリとした。何もまずいことをやっていないであろう教師は、
添えていた指をケースから離した。

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「いや。あなたほど分かるものはない。」
「そうではなく。」

教師は添えていた指の事を思い出すと、指先がじんわりとした。

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前のめりでガラスの中を凝視する生徒は、教師を見ずに続けた。

「先生、これってジャバボタンですよね。」
「…ジャバ…ボタン?」

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「先生、ジャバボタンですよ! 知らないんですか!?」

突如、声を張り上げた学生はムクリとした姿勢をとりつつ、教師を見上げたものであるから、教師としては「ヒッ」と出かかる声を押し殺し、そのためか上体をそらし、強張らせていた。

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よろけた教師の体を支えたヒールはコツッと静かな音を廊下に響かせた。 放課後の職員室前の出来事に、気がつく者はなかった。

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頭がグラリときた。さらに教師に目には、天井が見えていた。

「わたしが、何故? こんな姿勢を?」

よろけた所を押された部分には、生徒の両手に込められた力が残るようだった。

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「あー、おい…ジャバボタンて?」

ほんの一瞬、目を離したスキに答えるものはいなくなっていた。

目の前の学生はどこへ行ったのだろうか、教師が思う頃には、ダカダカダカという音が下の階段に響いていた。

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「アー、ジャバ?」

教師は尻もちを付いていた腰を上げると、ケースを覗いた。学生の指紋に合わせて、指、ほおを合わせ同じ姿勢をとってみた。

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「ハァ、ジャバ…ね」

目を閉じ、ため息をつく教師は、とても落ち着いた様子であった。しばらくガラスケースでの余韻を楽しんだかと思うと、取り出した赤いクロスで指紋を拭き始めた。

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「言うてもな、ないではないか。ジャバボタン」

自然と口にしたフレーズに本題を失いかねないため、教師はメタ情報をそっと心の奥にしまった。

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「まあいい、またあの学生に会う機会が増えたのだ」そう思うことにした。しかし、一週間には、学生は捜索願が出されていた。

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「ジャバボタン監視業務も今日で終わりか」ツツツと、爪先を鳴らさぬようガラスケースに指をはわせると、教師は紅いジャケットをあおりなおした。

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背中に手を回し、隠したムチの柄がある事を確認すると、ゆっくりと校庭をあとにした。

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さらに一週間後、誰にも気付かれぬことなく、150億のデバイスが一つ増えていた。職員室の前、ガラスケースには、紅く長細いボタンが今日も待ち構えていた。

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「先生、この紅いのって…」
「…」

教師はため息にも鳴らぬ声で、質問に答えると、こう返した。

「見えるのか、これが」

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『ガラスの中の紅い秘密』より抜粋

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