朝起きると、ファイル共有サービスになっていた。
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私の口にファイルが詰め込まれる。
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続いて、フォルダが差し込まれる。フォルダというものを、初めて見た。
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フォルダのひんやりとした感覚が、肌を通じて伝わってくる。その分厚は格納されたファイルの多さ、ニオイはファイルタイプの特殊さを物語っていた。
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「早くしろ」
決まって主人はこう言う。どれだけ、ファイルやフォルダを詰め込もうとも、私の消化速度は変わらないというのに。
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「おい、早くしろ」
ファイル共有フォルダになって、早一ヶ月。いつものように主人は私をせかした。
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「おせー!」
朝早くから、主人は仕事の書類が届かないとなげている。明後日が締め切りなのだという。
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なかなか開けない、と、主人はまだ私の口の中にあるファイルを開き始めた。
やめてくれ!そんなことをしても、ファイル転送は早くならない。
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私はすかさずカンバンを上げた。
「なになに?『 高速でファイル転送しませんか、今なら30日間無料、今すぐ申込』?」
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主人よ。私を買った店へ、お金を払えば早くなる。
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「てめえ、ふざけんじゃねえ!★※△…∞ё…!」
発狂した人間により、カンバンは真っ二つ!
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その後、カンバンを上げて以来、「本当は高速でファイル転送できるんだろ」だの「気合を入れろ」、「覚醒のときは今」などと主人は激を飛ばすようになった。
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「あなたとジャバ」
最近、主人は仕事中に変なことを言い出すようになった。
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「今すぐダウンロード。無料、ジャバのダウンロード」
人が変わったように、主人は穏やかになった。いつもの激は聞こえない。
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「ジャバ!ジャバ!」っと、言いながら私は口に、分厚いバイナリとドキュメントを突っこまれた。
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いつものようにファイルをチェックする。違法なファイルを流通させ、主人を困らせるわけにはいかない。これは検閲ではなく、仕事の一環だ。
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バイナリはジャバだった。無料のものだ。
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もう一つのドキュメントは何だろうか。チェック中、「今すぐダウンロードしませんか?無料申込はこちら」という文字列が目に飛び込んだ。
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特に違法なドキュメントではないようなので、そのまま飲み込んだ。
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ドキュメントはパンフレットのようだった。何かのセミナーかもしれないし、宗教の勧誘かもしれない。違法でなければ、私にはどうでもよいことだ。
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前回から一ヶ月。私は再度カンバンを上げた。
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「『無料』っていいね」
ツギハギのカンバンを見つめた主人はニコリと笑うと、私の鼻に付いた申込ボタンを押下したのだった。
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私の口に詰め込まれていたファイルは、静かに、しかしあっという間に消えた。あまりの速さに転送途中が見えない。
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「打ち合せ、行ってきまーす」
誰にいうでもなく、主人は出かけていったのだった。
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『ファイル共有人間ドロップ』より抜粋
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