冷たい汗が流れる中、ジャケットから三本の恵方巻を取り出した。柱を背に恵方巻を構える。
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コツコツと足音が近づく。頃合を見て通路へ飛び出す。まずは一本。出会い頭に恵方巻を放る。
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敵兵は突然あらわれたフードの伏兵に驚き、「アッ」と声を漏らした。そして恵方巻をキャッチ。「アッ」この一言が不運な兵の最後の言葉となった。
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もくもくと恵方巻を食べログ始める敵兵。フードに向けられた剥き出しの目は、何かを訴えるようであった。フードは一刺しすると、一言も声を漏らさず、敵兵は倒れた。
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フードは影に身をひそめる。通り越したフードには目もくれず、異様な風景を目にした。仲間が口に長細く黒い棒をくわえたまま、目からは涙を流し、倒れていたために、異様というには調度であった。
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転がる死体を元兵1、異様な光景に戸惑う敵兵を兵2としよう。兵2は、元兵1から流れる紅い液体に触れると暖かさを感じていた。「まだ犯人は近くにいる…」誰も見ていないと確信があるのか、恥ずかしげもなく独りごちた。
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ヒュッンヒュッン。おそらくこの様に聞こえたのだろう。兵2は背後からの風切り音に気が付き、気配のする方向へ構えた。
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回転する恵方巻を叩き落とすことなど、造作もない。そう言わんばかりの手つきは、まことになまめかしく鮮やかであり、飛ぶミサイルを手で掴むかのように、恵方巻を叩き落とした。
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転がる恵方巻。さらに、一本、飛来する巻があった。最初の恵方巻はカモムラージュ。次こそが本命の様相を呈していた。
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「おい、北北西はこっちだ！」
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「あん？」
目の前の恵方巻を無視したこの瞬間、兵2が元兵2となる事が運命づけられた。いや彼の運命は、恵方巻が創造されてから決まっていたのかもしれない。
振り向いた兵2の後頭部へと突き刺さる恵方。パラリと剥がれ落ちるのり。膝をつき、だらりと腕を伸ばしたまま、倒れる兵2。恵方巻ほど、マチェットの偽装に向いた食べ物があっただろうか？
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フードの男は、兵らをまたぎ、紅いボタンを拾い上げる。
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フードはこれだ、と自身を喜ばせるように、ニヤリとした。そして、グッと手に力を入れた次には、ボタンからは「おい、北北西はこっちだ」と鳴りだし、次の押下以降「上だッ」、「ジャバ！」など、ふざけた文言が飛び出した。
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フードは、ボタンを軽く放り投げると、そのままの勢いで、横からボタンをキャッチ。次には、ボタンのダイヤルを回した。どうやら時限式のジャバボタンであったようだり
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『紅き恵方巻』より抜粋
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