女とすれ違ったのを確認した酔っ払い風の男。女の視界から消えた男の背筋はピンと伸ばされていた。男は懐からジャックラカンを取り出すと、指先でペン回しならぬラカン回しを始めた。灯篭の光が、ラカンをギラりと照らす。
— ジャバとドーナツの穴、それらの意外な関係 (@toby_net) March 27, 2016
女の背中には結界がない。男ならば誰しもが知る事実。そして、ラカンを手の上で踊らせているその男にも幸いなことだった。 残光を残すように、光は走る。女の背中に向かうラカン。
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DoSリ。ニブイ音がした。女は久の字のまま硬直している。直撃したのはラカンではなかったのか。否!刺さったのはジャバボタン!サービス不能攻撃だ。男の手にあったはずの、ラカンはいつの間にか赤い物体へと変化していたのだった。
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女はサービス不能のまま、地面にエラーを吐いた。そのとき男は、女の出力と握られた紅いボタンへ交互に目をやっていた。あんぐりと開いた男のポートはふさがらず、マウスカーソルを追うような目つきは、男にとって意外さを表しているようだった。
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ジャバボタンが誰の手からも離れたころ、男はふところやポケットをまさぐっていた。ラカンだ!ラカンはどこへ行ったのだ! 手から離れて初めて、男は自分自身を亡くしたような損失感にかられた。
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カラカラと転がるボタンは、そのまま排水溝へと吸い込まれていった。
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ちょうど街では、分散サービス不能攻撃が流行。病床は、ジャバ病とサービス不能症の患者で埋まっていた。
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赤いボタンが消えてから数か月、新たなサービス不能症の患者を見る機会は無くなった。新聞の一面を飾るほどの出来事は、一夜にして止んだのだ。
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『分散サービス不能事件』より