「FAXは時代おくれ」。男は言う。次の瞬間、その男の口から脳へ向かい大量の名刺が差し込まれた。 一枚ずつ吸い込まれる名刺。口を券売機のように一文字に開いたままの男。男の目はせわしなく、何かを機械的に処理しているかのように動くのだった。
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
「ガーッ。山田サマ。ピピッ」。男は意志とは関係なく機械的な音声が、自らより発せられる事に驚いてばかりいた。「ばかりいた」そう。もう数十枚は、名刺を吸い込んでいるのだ。
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
〈タカタカ、タカ…〉 男の自慢のメカニカルキーボードが、その高級な打鍵音を響かせる。名刺を読むたび、一つ前の名刺に書かれた文字列が、画面へと現れていた。男の目はなおまだ勢いを増していた。
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
目の動きを中断した男は、パイプクリーナーを持ち一息ついた。喫煙室がないこの職場での男の息抜き。それは、社屋の洗面台という洗面台に水酸化ナトリウム(2%)を流し込む事であった。
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
流しとともにスッキリした顔の男は、席に戻る。座るやいなや、また、数十枚の名刺を流し込まれていた。いったい… いつになれば終わるのだろうか。
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
先月の統一次元ジャバイベントでは、あらゆる次元のジャバ仙人から、名刺を頂いたのであった。その時の人力名刺OCRは、2038年までかかる見通しだ。
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
「名刺も時代おくれという風潮が、早く来てくれないだろうか」と男はため息をついた。
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
名刺を過去に葬り去る。それも無駄な願いだという事を男は、悟っていた。何しろ、あらゆる次元に現れるジャバ仙人。その意思、すべてを変えることなど、神託機械(オラクル)ですら出来ないだろうから…
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日
『DEPRECATED METHODS』より抜粋
— ドーナツの穴 (@toby_net) 2017年5月13日