フードの人間はジャバと呟くと、ボタンを連打した。何かあると、連打するその姿は、乗客に不安を与えたようだ。
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「左手に見えますのが、ソフトウェア生産工場です。」
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それを聞いてか、フードによる連打がより速くなった。
運転手による度重なる案内は、フードを更に興奮させたようだった。
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ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピッ、ピンポーーン
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もはや、降車のサインは用をなしていない。 乗客らは自らの意志で、降りることが出来ず、青ざめた様子だった。
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「ジャジャジャジャジャジャバーッ」
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ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピンポーーン
実質的にバスはジャックされていたが、誰もが単なる迷惑行為として、やり過ごしていた。
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乗客の一人は考えていた。「終点から折り返せば、やり過ごせる。」その考えは、甘かったようだ。
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終点。フードの男は、ボタンを連打している。降りない。フードの男は納得いくまで、ボタンを連打し続けるつもりだ。
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餓死するまでボタンを押し続けるのではないかと思われる、その様子を見て、乗客の何人かは、目配せを始めた。
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数人の給与所得者が立ち上がった。彼らのゆたかな筋肉は、プログラマーのそれだった。
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一人は電磁キーボードをフルサイズに伸ばした。もう一人は、後ろ手のまま、ジャバスクリプトを装着。最後の一人はポケットの中の手に、ハスケルを忍ばせた。
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フードはボタンの連打に夢中になっている。 再度のアイコンタクトにより、三人はフードに飛びかかった。
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それは、予期していたかのようだった。
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フードはすかさず振り向くと、ピーエイチピーを三射。 とびかかる給与所得者らのボディは、空中で分解した。
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ジャコム。フードの腕からは、煙が上がっている。熱せられ紅くなった射出口からは、ピーエイチピーの熱さが伝わってくるようだった。
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ジャコムと再装填されたピーエイチピー。
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ボタンの連打が止まった瞬間を、乗客らは見逃さなかった。 命名にボタンを一回づつ押下すると、彼らは、何事もなかったように席に鎮座した。
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フードは再度ボタンを連打し始めた。しかし、次の停留所でバスは停まった。乗客らの願いは聞き届けられたのだ。
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全ての乗客は、いや、フードと三人の死体を除く乗客らは無事に、目的地へ向かった。
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バスの扉が閉まる隙間から、フードがピーエイチピーを構える姿が見えたが、誰もその姿に気がつくものはいなかった。
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尊い三人の給与所得者によって、乗客らは生き延びることが出来たのであった。
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『紅いバスジャック』より抜粋
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