130億の男

森田
工場
— { } 太郎 (@toby_net) February 28, 2016

「いくつジャバ作れば終わるんだ」

〝生産(うめ)よ、増やせよ〟と書かれた標語は、今にもはがれ落ちそうであった。
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「グワハハ！今日は10万作ったぞい」

隣の男は大声を張り上げた。センターのダッシュボードには彼の名前が踊っていた。
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〝本日の成果〟
〝スカラ: 101kデバイス〟

自らの生産性を誇る男の顔は幸せそうだった。
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ただデバイスを作ればいい訳ではない。工場長にどやされるぞ、とあなたは標準入力を噛み締めた。
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我々に求められているのは、闇雲にジャバすることじゃない。
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目的に沿った対応が、求められているのだ。河原で石をいくら積んでも、母のためにはならない。
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(ジャバババババ！)

消灯。アラームが成り終わる前の暗闇は、昼休みの合図だ。
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リール巻き寿司を口に入れながら、あなたはメモをとる。

「今日の議題は、どうすれば少ないデバイスで130億以上と戦うか」
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「なっ、お前もそう思うだろ？」

10万デバイスの男の声が聞こえた。同時に、男はあなたの背中をどついた。

「えっ、ああ、そうだな」
「だろ？グワハハッ」
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「グハハ！あなたよ。あなたは、オレが闇雲にジャバしてると思ってるだろ」

ドキリとした。
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宗教の勧誘に答えているとき、想定外の答えが返ってきたかのような感触だった。
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例えるなら… 葬式の木魚が突然オートで鳴り出したら、ビックリするだろう。あの感覚だ。
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持っていた端末を握る手が、あなたの指先は、じっとりとしていた。
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10万デバイスの男はさらに口を開いた。

「思ったことが口から出ているぞ。体験したことのない例えはやめときな」
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あなたが防御体制をとる前に、男は全フォルダトランスコードを叩き込んできた。こちらの行動が読まれている！
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「いいからコレ食え」

ドーナツの穴を詰め込まれたあなたは、思っていた事を口に出せなくなっていた。
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(ジャバババババ！)

「グワハハ。さて、午後もジャバするか！」
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数時間ののち、再度の暗闇が訪れた頃、10万デバイスの男は、20万デバイスとなっていた。
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「グハハ！あなたさんよ、どう、今日寄ってく？」

20万以上の男は、指を押下するジェスチャーを見せていた。
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たまにはいいかと、あなたは男とともに「押下場」へと繰り出したのだった。
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「押下」。結局は自分たちの作ったデバイスを連打する遊技である。
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押すとジャバジャバなる音を聞くと、射幸心を煽られるのだ。
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20万以上の男は、幾つかのボタンを集めては押下して回っていた。
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射幸心を煽られるでもない、その顔は、満足げな顔に見えた。
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『130億の男』より
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